【セミナー #05】AironWorks株式会社 寺田 彼日氏の創業ストーリー 〜イスラエルでの起業のリアル〜

2022

千葉大学ベンチャービジネスマネジメントの講座(VBM)では、著名な経営者・起業家・ビジネスパーソンに登壇いただき、起業やキャリア戦略等についてお話いただいています。

2022年11月2日(#05)は、イスラエル発のスタートアップであり、AIを用いた次世代型サイバーセキュリティ訓練プラットフォームを展開するAironWorks株式会社 CEOの寺田 彼日(あに) 氏をスピーカーに迎え、セミナーを開催しました。今回は、寺田氏がなぜイスラエルで起業したのか、起業までのストーリー、そしてイスラエルのスタートアップ事情などについてお話しいただきました。

当日のセミナーの様子をお届けします。

阪神淡路大震災から起業を決意

現在、イスラエルでAironWorksというAIを用いたサイバーセキュリティ訓練プラットフォームを提供する会社を経営している寺田氏ですが、起業を考え始めたきっかけは、神戸在住時の阪神淡路大震災のときだったそうです。

“小学校一年生の時に阪神淡路大震災に被災しました。地元の普段見ていた景色が焼け野原になってしまって…。その復興支援の時に、関西の起業家、特に神戸でいうとアシックスの鬼塚さんがスポーツイベントをやって子供を励ましてくださったり、大阪の日清の安藤百福さんが支援してくださったりと、そういう関西発で、グローバルに広がっていくプロダクトを作っている起業家がいるということを知って、そこで起業を目指すようになったというのがきっかけでした。”

イスラエルとの出会い

  なぜイスラエルで起業をしようと思ったのかという理由については、ある本がきっかけだったとお話しいただきました。

“元々イスラエルという国は知っていて、ある時に大学の図書館で「startup nation」という本を見つけたんです。起業家がいて、それを支援する投資家や学術機関があって、マーケットがあって・・・といったある種の生態系のようなものをスタートアップエコシステムと呼ぶのですが、これにもともとすごく興味があり、イスラエルのスタートアップエコシステムはどうやらすごいらしいということをこの本で知りまして、そこでイスラエルに興味を持ちました。“

そうして寺田氏は2013年に大学を卒業し、2014年にイスラエルに渡りました。渡航当時、イスラエルでの紛争が市街地で起こっている事に衝撃を受けられたそうです。
ただ、紛争が起こっていない時はとても治安が良く、風光明媚で良いところだともおっしゃっていました。

イスラエルのスタートアップ事情

イスラエルは、四国程度の大きさで人口も1000万人に満たない小さな国です。

しかし多くのイノベーションが生まれている国で、実際にIntelのCPU、Google検索、Googleが買収したWazeというカーナビアプリ、iPhoneの顔認証など、イスラエルでは多くのイノベーションが生み出されています。

また、スタートアップエコシステムという点でも優れており、世界のスタートアップエコシステムランキングでイスラエルのエルサレムは第6位に位置しており、これは東京の第15位よりも優れています。
では一体なぜイスラエルは、こんなにもイノベーションが多く発明される国なのか、寺田氏はこう説明してくださいました。

“1993年から、「ヨズマプログラム」というのがはじまりまして、国のお金でスタートアップを支援していこうというものです。ただ、お金だけ集まっても意味ないのですがイスラエルのユダヤ人やイスラエル人というのは非常に起業家精神旺盛な方が多いです。また、イスラエルは高校を卒業すると男性も女性も軍隊に入ります。大体平均で2年8ヶ月所属していて、そこで専門的な知識を身につけています。弊社のCTOは「8200部隊」という、諜報活動やセキュリティ関連の任務を行う部隊出身ですが、ここに非常な優秀なIT人材が多く集まっています。また、軍隊から出た後、大学でより専門的な内容を学んで起業するという人も多くいます。”

イスラエルでの失敗から学んだ大切なこと

こうしたイスラエルの優れたスタートアップエコシステムを目の当たりにし、様々なイスラエルでの失敗を経て寺田氏は「今、日本は変わる必要がある」と考えるようになったそうです。

それらの失敗と、その失敗から学んだ大切なことについてお話しいただきました。

“イスラエルに渡ってから、スタートアップのコミュニティを作ろうと思っていて。場所を借りてイベントを立てるのですが、最初は全く人が来ませんでした。大きな会議室を借りたのに五人くらいしか来なかったりと。しかし、イベントを継続的に行なったり、他のイベントに顔を出したりなどで少しづつ繋がりを作っていって、最終的にGoogleのオフィスを借りて200人以上集めてイベントを開催できるようになって事業化に繋げられました。こういったように、結構泥臭いことをやったんですよね。

その経験から、事業立ち上げる時っていうのは確率論の問題だと思いまして、何かうまくフレームワークに当てはめたから成功するというのはそんなにないと思ったんです。そういう意味では、どれだけ早く失敗を積み重ねて、成功に結びつけられるかが大切だと思っています。なので、皆さんにもたくさん失敗して欲しいです。“

では、どのようにしたら失敗を積み重ねることができるのか?という点について、寺田氏は次のように語っています。

“まず一つは、「人が質問したくなる事」つまり、「誰もやっていないことに取り組む」という事です。これはすごく難易度が高い事なので、失敗しやすいかなと思います。実際、今でこそイスラエルって徐々に注目されてきているんですけど、8年前は会う人に毎回「なんでイスラエルいくの?」と聞かれていました。これってある種いいシグナルで、他の人が疑問を持つような、誰もやっていないチャレンジをしているという証拠だと思っています。

あとは、小さな失敗というのはたくさんあるんですけど、「社会に価値を提供したい」「世界中で使われるようなソフトウェアを作りたい」という社会的な意義や大義を持って挑戦しているということに対して失敗というのはある意味存在しないんじゃないかなと思っていますので、そういう考えで挑戦してほしいと思います。“

最後に

寺田氏は最後に次のように語ってくださいました。

“日本とイスラエルの起業家の違いとして、「日本のマーケットを制してから世界に行く」だったり、「そもそも世界を見ていない」というところがあると思っています。皆さん日本という恵まれた環境で生まれ育ったと思うので、それを世界に還元していくという視点で起業を目指して欲しいなと思っています。なので、僕としては「人が質問したくなることに取り組む」「志と大義を持って継続する」「日々の出会いを大切に感謝する」という三つを意識して、失敗を積み重ねてこれから頑張っていって欲しいです。“

質疑応答

セミナーの最後には質疑応答の時間が取られ、学生からはたくさんの質問が飛び交いました。その中からいくつかの質疑応答をご紹介いたします。

Q、誰もやっていないことをやるということで、自分がそういうチャレンジをしようとするときに、できない理由がいくつも目に入ってしまって踏み出せないことが多いです。そういうときにどうやって一歩踏み出すことができるのでしょうか?

“すごくいい質問ですね。きっとすごく頭が良いからそういうリスクなどを考えることができると思うので、それはすごくいいことだと思います。一方で、もし起業される場合には、スタートアップの成功率って10%以下だと言われていて10回に1回成功すればいいという世界なので「失敗ってして当たり前だ」という世界なので、そこは知っておいて欲しいです。ただ、無謀な挑戦というのもありますよね。その判断のために世界をマクロ的に見るということが大切だと思っています。例えばマクロ的に見て日本というのは超少子高齢化社会ですから、今から赤ちゃん向けのサービスを作るというのはあまり成功確率が高くなさそうですよね、逆にインドというのはこれからも人口が増えていきますから、そこに対して何かやるとか。

とにかく自分がやりたいことの周辺のマクロ的なデータというのを見た上で、それが良好な指標を示しているのであれば、スタートアップというのは大体失敗するので、飛び込んでやってみるといいんじゃないかなと思います。

自分を例にしてみると、イスラエルのスタートアップ投資額やR&D投資額というのは明らかに世界トップレベルだったんです。一方で現地に住んでいる日本人は千人しかいなくてビジネスパーソンは百人以下、起業している人は一人もいないということで、飛び込むに値するブルーオーシャンでした。“

Q、起業する前に大企業に行ったほうがいいのか、或いはスタートアップにいったほうがいいのでしょうか?

“私自身は大企業に就職しました。もともと大学時代にインターンで企業が大きくなっていく様子を見ていたので、今度は自分が起業するときに組織を大きくしていくことを見越して、大企業の課題を見たいと思っていたからです。実際に就職した会社で色々と大企業ならではの課題というのを手触りを持って体験することができたので、それはすごく大きかったです。また、自分で起業してCEOやるというのとスタートアップで働くというのはかなり違うんですよね。どういうことかというと、CEOは自分で課題を設定して、それを解決して社会的価値を出していくというのを全責任を負って意思決定していくという仕事なので、これは初めての経験だったので初めはすごくストレスでした。起業してどういう経営ができるかというのは自分の経験に依存するので、一概に大企業に就職すればいいとも言えないですね。自分の中でどういう経験をしたいかという点で選べればいいんじゃないかなと思います。”

■登壇者プロフィール

AironWorks株式会社
CEO 寺田 彼日 氏

京都大学在学中にSloganの京都支社起ち上げ、トルコKoç Universityへの研究者派遣留学を経て、Benesse Corporationにてデジタルマーケティング及び社内新規事業に携わる。2014年イスラエルに渡りAniwoを創業。日本 – イスラエル間のオープンイノベーション推進、イノベーション人材の育成・採用サービス運営を行う。2021年サイバーセキュリティ領域に特化したプラットフォームを開発・提供するAironWorksを創業。京都大学経営管理大学院修了(MBA)、大阪大学経済学部卒。

■終わりに

今回は、AironWorks株式会社 CEOの寺田 彼日氏に登壇頂いた際のセミナーの様子をお届けしました。 今後もアントレプレー教育の一環として、ベンチャービジネスマネジメントの講座(VBM)に登壇いただく予定です。著名な経営者・起業家・ビジネスパーソンから、起業やキャリア戦略等についてお話いただきます。