【セミナー 2023-1115】株式会社フーディソン 代表取締役 山本徹 氏の創業ストーリー

2023

千葉大学スタートアップトレーニングⅡの講座(SUTⅡ)では、著名な経営者・起業家・ビジネスパーソンにご登壇いただき、起業やキャリア戦略等についてお話いただいています。

2023年11月15日は、ミッションに「世界の食をもっと楽しく」を掲げる株式会社フーディソンの代表取締役 山本徹氏をスピーカーに迎え、セミナーを開催しました。2度の上場の中にはどんな思いがあったのでしょうか。新卒入社から起業、上場に至るまでお話いただきました。

当日のセミナーの様子をお届けします。

経営者になるまで

生鮮流通プラットフォーム事業を運営する、株式会社フーディソンの山本氏。2023年3月期の決算は売上52億超、来年度の予想決算は売上60億超と飛躍的成長を遂げる一方で、離職者の増加、経営赤字など大きな挫折もあったそうです。

北海道大学工学部卒業後、2001年不動産デベロッパーに入社。周りが大学院に進学したり、エンジニアになる中での選択をしましたが、1年で退職してしまいます。しかし山本氏にとってその過程は決して無駄では無かったと言います。
「最初に勤めた企業で今の奥さんとも、起業メンバーとも出会いました。」
その後、2003年に株式会社エスエムエスの創業メンバーとして起業。何もない状態からIPO後の成長フェーズまで人材事業のマネジメント、新規事業開発に携わりました。そして2008年に株式会社SMSマザーズ上場を達成します。

ベンチャー企業の経営

こうして不動産デベロッパーから経営者へ転身した山本氏。ベンチャー企業の経営の難しさを話していただきました。

 「ベンチャー企業の経営は、操作が分からない状態でグライダーに乗り込み、運転しながら学んでいくようなもの。学びと実践の連続です。」

 自身が創業しようと思ったきっかけは、2社目の株式会社エスエムエスの上場の際の辛さからだそう。一見順風満帆な人生に思えますが、そこには会社の成長に自分が追いつけていない感覚があったと言います。創業メンバーとして経営やコンサル、営業を学び、全てを1から自分達で実践していましたが、限界があったように感じたようです。

 多大なキャピタルゲインと周囲からの称賛がある一方で、それに伴い成長する余裕が無く、劣等感もありました。成功と挫折、両者の狭間の中で生きていた際には、「創業メンバーとして上場を成し遂げました。しかしそれは僕がしたことなのかと考えてしまいます。」と述べていました。

 そのような感情を乗り越えた上で、もう一度自分を信じたいという感情となり、再度創業を決意したのがきっかけだそうです。
1人での再スタート
 そうして2013年に創業した株式会社フーディソン。埼玉県の田舎で深谷ネギに囲まれ育った山本氏は、海とは無縁の人生だったそうです。しかし、三陸のサンマ漁師との出会いから日本の水産業に問題意識を持つようになり、水産業での起業を決めました。

 ミッションを「世界の食をもっと楽しく」、中長期のビジョンとしては「生鮮食品に新しい循環を」を掲げ、存在理由をおいています。
 日本を中心に、魚、肉、野菜にしなやかな流通を提供することにより、業界の活性化を図ることを狙いとしています。

 山本氏は創業当初、食産業は関わる企業や関係するマーケットが非常に大きいという特徴がありながらも、テクノロジーを活用したプラットフォーマーが存在していない課題に着目しました。
 ある程度規模が大きい業界であれば独占的な企業があるようなものだが、それが無かったそうです。まっさらな状態から仕組みを作り、その中で成長していく様子は、サクラダファミリアのようだと述べます。生鮮流通のプラットフォームは最終形が見えていないが、模索しながら進んでいるのです。

3本の柱で流通のプラットフォーマーに

具体的なサービスは3つあります。

代表的なサービスである、飲食店向け食品Eコマースサービス「魚ポチ(うおぽち)」。スマホで簡単に魚を購入出来るサービスで、東京都内の飲食店、毎月4000件程が日常生活の中で利用いただいています。
人手不足の水産業において、発注の手間を省ける点は先進的なものであり、深夜に市場に行くというこれまでのイメージが一遍する仕組みです。
売上の8割を占め、新食添向けの卸売ビジネス市場規模だけでも4.5兆のマーケットサイズを保有するため、魚ポチには今後も期待が高まります。豊洲や築地での競りのような、オールドエコノミーの権利も持ちつつ、テクノロジーをかけ合わせることが目標だそうです。
個人向け鮮魚セレクトショップ「sakana bacca(サカナバッカ)」では、魚の専門店を8店舗運営し、東京駅の中にも2つの店舗があります。
「毎日の食卓に、感動と冒険を」をビジョンに掲げ、街の鮮魚販売店の減少という課題解決を狙います。珍しい魚に出会うだけでなく、食べ方の工夫を知るなど、魚食文化の伝達機能を担う期待があります。
食品事業者向け人材紹介サービス「フード人材バンク」の運営は、非常にニッチな領域でありますが、生鮮食品は加工職人の技術無くして成り立たないと山本氏は考えます。
スーパーマーケットの約40%の職人が自分達の取引により適切な職に辿り着くことを実現しています。

離職者の激増と挫折

当時、創業から2年の2015年に10億円の資金調達という非常に大きなチャレンジをしたそうです。設備投資、マーケティング、採用など、経営を固めようとしましたが、上手く循環せず、2017年に離職者が激増、組織の崩壊が起きました。ネガティブなシリアルアントレプレナーのようになってしまう恐れもあり、大きな障壁にありましたが、自分を見つめ直すきっかけになったと言います。
「当時の自分は、都合の良い権限委譲をしてしまっていました。だから、結果に責任を持ち切れなかった。上層にいたにも関わらず、オペレーションは自分が卓越しているという無駄な自信があったんだと思います。」
山本氏はそこから、友人の言っていた「失望の矛先は自分に向けろ」と言う言葉から、本格的な内省を始めたそうです。

失望の矛先を自分に

山本氏が内省を始め、大切にしていたことは「自分が自分自身がシャドーに流されていないのか」を問うようにしたことだと言います。
 シャドーとは、成人発達理論の中で、劣等感や過去に負った心の傷など、自分が見たくない心の闇とされており、推進欲にも、抑止力にもなりうるそうです。シャドーを認識し、自分の意思を自動運転状態にしないことが重要だと言います。
「社員に不信感を覚えてしまった時、無性にストレスを感じてしまった時など、感情が揺れた時に内省することを繰り返しました。出来ないことが出来るようになったのみでの成長でなく、春夏秋冬を過ごす中で自然と成長の種を育て続けているイメージです。」
例えば、幸せなことは忘れないが嫌なことは忘れてしまうことを欠点としていたため、常にメモするなど、日々の内省を怠りませんでした。

シャドーと

次に山本氏が興味を持ったのは、情報処理プロセス。人間は事実・現象が反応・行動に移るまで、過去の経験や自己認識シャドーが働くと言います。
 例えば、失敗をして先生や親から怒られた経験があれば、自分も部下が失敗したら無意識に怒ってしまう、など。
「自分のことを振り返ると、部下が困っている時に突き放すということをしてしまっていた。自分で考察すべきだという無意識的な判断が、部下に、組織にダメージを与えていました。」
この挫折の裏に隠れたシャドーは、自身の父親との関係が影響しているように感じているそうです。
「父親は親を中学生で亡くしており、抱擁されなかったという想いを持ち生きてきました。そして、子どもである山本さんに対して、放任主義を貫いていました。その幼少期の経験を、経営者として部下に無意識の内に与えてしまっていました。」
シャドーワークをする中で、対人関係の中で生まれたものを自分の中で掘り起こすことの難しさを非常に感じていたそうです。「これで自分のシャドーを理解しきった」と思っても、また新たなシャドーが発見され続けます。
今は2020年頃から続けている専門家とのセッションの中で、成長の余地を見出していますが、今の自分で妥協してしまう感情もあり、向き合い続けているそうです。

運よく謙虚に

山本氏は、自身のことを珍しい存在だったと自負しています。業界では成果を得ようとしひたむきに努力する経営者が多い中、上場することが最大目的では無かったと言います。
「再度上場した時、自分の夢を達成したという感情よりも、関係者である取引先、社員、社員の家族、投資家などとの約束を守れた、という感覚でした。」
挫折と内省を繰り返し、今の状態を得た山本氏に成功の秘訣を聞くと、「運が良かった」と述べます。
その謙虚さは事業にも表れており、始めから巨大なインフラの構築を目指すのではなく、プラットフォームに必要な機能と、成長のためのキャッシュを個別のサービスで獲得し長期的に達成することを目指しています。
日本の水産業の発展に向き合う山本氏、フーディソンの今後に期待し、締めくくらせていただきます。

登壇者プロフィール

山本徹(やまもととおる)

1978年埼玉県生まれ。北海道大学工学部卒業後、2001年4月不動産デベロッパー入社。2003年4月に株式会社エスエムエスへ創業メンバーとして参画し、2008年のマザーズ上場まで人材事業のマネジメント、新規事業開発に携わる。退社後、三陸地域のサンマ漁師との出会いの中で水産業界に課題を感じ、2013年4月に株式会社フーディソンを創業、代表取締役CEOに就任。飲食店向け食品EC「魚ポチ」を中心に、水産業界にて事業を広げる。2022年に東京証券取引所グロース市場へ上場し、水産流通のプラットフォーム化に向け事業拡大を続けている。

終わりに

今回は、株式会社フーディソン代表取締役の山本徹氏にご登壇いただいた際のセミナーの様子をお届けいたしました。

今後もアントレプレナー教育の一環として、スタートアップ・トレーニングⅡ(SUTⅡ)に登壇いただく予定です。著名な経営者・起業家・ビジネスパーソンから起業やキャリア戦略等についてお話しいただきます。