【セミナー 2023-1108】株式会社Agnavi 代表取締役玄成秀氏の創業ストーリー

2023

千葉大学スタートアップトレーニングⅡの講座(SUTⅡ)では、著名な経営者・起業家・ビジネスパーソンにご登壇いただき、起業やキャリア戦略等についてお話いただいています。

 2023年11月8日は、日本酒を缶で販売するなど、日本酒周辺の事業により日本の魅力を世界に伝える株式会社Agnaviの代表取締役 玄成秀氏をスピーカーに迎え、セミナーを開催しました。学生のクラウドファンディングの記録保持者である玄氏はどんな人生を歩んできたのでしょうか。研究者としての学生時代から創業に至るまで、多くの話をお話いただきました。

 当日のセミナーの様子をお届けします。

心技体を鍛えた学生時代

生まれの群馬から北海道の函館ラサール中高に進学し、男子校、寮生活を経験した玄氏。「毎日2.5時間の義務自習という名の学習により、心技体が鍛えられました。」と笑って述べます。

 大学、大学院では東京農業大学に進学し、農芸化学を専攻しました。特に、栄養生化学という生産から消費までのサプライチェーンを網羅的に研究し、ガン抑制タンパク質T2C2の解析をしていたそうです。書き上げた論文は国際的な週刊科学ジャーナル、Nature誌に掲載されるなど、学術的な面での功績も残しました。

 そんな玄氏には、大学2年の時から「安全で美味しい食を世界中に届けたい」という夢がありました。しかし、いざ学部生時代に取り組んだ就職活動では「正直な志望動機が浮かばない。」という理由で熱中できず、目の前の研究を追求することに魅力を感じ、大学院に進学を決めます。

大学院への進学と起業

そして在学時の2017年4月、AG/SUM2019のハッカソンを機に「生産者に多様な選択肢を」をミッションに掲げるアグリテック、フードテック系ベンチャー、株式会社アグリペイを起業します。自社オリジナルの純米大吟醸「農学原酒」の開発や、幅広いネットワークを生かした日本酒販売サービス「サケチョク」、生産者と消費者を直接つなぐサービス「AGNAVI」を運営し、イベント企画やコンサルティング業務を行っていました。

 そもそも起業したいと考えたきっかけは、男子寮のラウンジで付けたテレビで孫正義氏を拝見したことだったと言います。「正直、こんなに狂った人が日本にいるのかと思いました。ITでなく食の分野で勝負し、孫さんではないが玄さんと言われる時代をつくりたい。」そんな思いを胸に、ある挑戦をすることを決意します。

小さく守り、大胆に攻める。

起業した後、お金が無いときにこそ必死に頭を働かせることを大切にしていた玄氏は、クラウドファンディングを実施する決断をしました。「クラファンで支持されないものが、事業として成立し、世に展開出来る分けが無い。」と考えた玄氏の挑戦は、目標金額100万円を大幅に超え、1,113万円を達成する特大プロジェクトになりました。現在まで複数回のクラファンを重ね、支援総額4,500万円を募った玄氏は、国内20以上のメディアに掲載されるなど、活躍を続けます。

 そんな玄氏が本講義で最も伝えたいことを伝えていただきました。
「今、本当にやりたいことをすべき。昔あった出来事への執着は間違いです。考えを常に修正していくべきです。」玄氏が大学2年時からの目標を常に再確認し続け、複数のクラウドファンディングや起業をしても一貫して変わらなかった想いから述べていたのだと感じます。

連続起業家としての夢

そうして2020年、株式会社アグリペイの全株式を売却、新たに株式会社Agnaviを創業し、連続起業家として歩みを進め始めます。「安全で美味しい食が世界中にいきわたる世界を目指す」という夢を実現するため、「生産者に多様な選択肢を」というミッションを掲げました。

日本酒事業として一合缶での販売や、食や農の経営コンサルタントなどを手がけます。コロナ禍であったものの、酒蔵へのプラットフォームの形成に従事し、現在では日本酒製造企業1200社と協業する程業界の中で大きな影響力を持つ存在になっています。

そんな玄氏が日本酒に着目したのは、業界にあった課題からでした。日本酒の消費量は1975年から2022年までの50年間で77%減少しています。また、日本酒の輸出量は474億円と、国を代表するお酒でありながらフランスにおけるワインの輸出量1.2兆円と比較し大幅に少ない数字です。 

そこで玄氏は、日本酒をその他飲料と同様に缶で販売する案を考えます。缶での販売にはあらゆる観点で可能性があると言います。ビンに比べ軽量であり、リサイクルの際のCO2排出量も削減されます。日本酒は地方に根付き、地名が名前として付けられるような地域を代表する産業です。地方創生の観点においても、日本酒の消費の増加を目指すことは欠かせないと考えます。

地域に来てもらう仕掛けづくりを

まず、目標としては現在の日本酒の6000億市場を倍にすること。これは、ビール業界で缶の販売が始まり普及が進んだ前例があることから、実現可能であると強く信じているそうです。そのため、今は幅広い世代に日本酒を知ってもらうための活動をし、自分がこれまで訪問しなかったようなコミュニティに足を運んでみるなど、新たな挑戦を繰り返しています。

 「商品を理解する視点の違いについて、市場から逆算した消費者ニーズを考えることが重要です。ボトムアップ、トップダウン、考えはどちらも大事。日本酒を通じた日本の魅力発信を担い、日本酒を通じて日本、地域に来てもらう仕掛けづくりをしたい。」と玄氏は述べます。

皆さんに伝えたい事

最後に玄氏は、学生である我々に伝えたい事として、いくつかのことをお話して下さりました。

「最初は誰でもスモールスタートですが、立てた目標に人生は大方比例します。迷ったら、今していることがどういった人をどれくらいの量救えるのかを考えて下さい。そうしてワクワクした方に進んでいくことが大事だと思います。」

数々の挑戦と失敗を繰り返し、研究者、起業家どちらの側面からも事業に向き合ってきた玄氏の熱い言葉で、講義は締めくくられました。

登壇者プロフィール

玄成秀(げんせいしゅう)
株式会社Agnavi 代表取締役 / 博士(農芸化学)

1992年、群馬県出身。2008年、2011年に函館ラ・サール中高卒。2016年に東京農業大学を卒業後、同大学院 農学研究科 農芸化学専攻 修士課程を修了(首席)。在学中には米国コーネル大学食品科学部に留学。2017年に株式会社アグリペイを起業、2019年に代表取締役に就任。クラウドファンディングの国内学生最高額記録保持者。翌年の2020年に全株式を売却し、法人委譲する。同年、株式会社Agnaviの創業。2021年、東京農業大学大学院 農学研究科 農芸化学専攻 博士課程を修了、博士の学位を取得する。2021年4月より東京農業大学客員研究員として勤務。現在は株式会社Agnaviを通じ全国100蔵元と協業しサプライチェーン改革に励む。国内最大手の日本酒缶ブランド「ICHI-GO-CAN®」「Canpai®」の展開により、世界へ日本酒のすばらしさを広める。

終わりに

今回は、株式会社Agnavi 代表取締役の玄成秀氏にご登壇いただいた際のセミナーの様子をお届けいたしました。

今後もアントレプレナー教育の一環として、スタートアップ・トレーニングⅡ(SUTⅡ)に登壇いただく予定です。著名な経営者・起業家・ビジネスパーソンから起業やキャリア戦略等についてお話しいただきます。