【セミナー #10】Axcelead drug discovery partners株式会社  池浦 義典 氏の起業ストーリー 〜製薬業界とバイオベンチャー〜

2021

千葉大学ベンチャービジネスマネジメントの講座(VBM)では、著名な経営者・起業家・ビジネスパーソンに登壇いただき、起業やキャリア戦略等についてお話しいただいています。

2021年12月15日(#10)は、日本初の創薬ソリューションプロバイダーとして、技術支援やコンサルテーションを行うAxcelead drug discovery partners株式会社(アクセリード ドラッグ ディスカバリー パートナーズ株式会社) 池浦 義典 氏をお招きし、「製薬業界を取り巻く状況とバイオベンチャーへの期待」をテーマにお話し頂きました。

当日のセミナーの様子をお届けします。

■バイオベンチャーの現状を解説

セミナーは池浦氏の自己紹介と会社紹介から始まりました。
池浦氏がCEOを務めるAxcelead drug discovery partners(株)は、武田薬品工業(株)からのスピンオフ企業として2017年に設立し、2019年に武田薬品工業(株)から完全に独立しています。

本日は、3つのトピックに分けてお話し頂きました。

『1.ヘルスケア・製薬業界を取り巻く環境』

日本が超高齢社会、医療費抑制政策を積極的に取っている現状について、「放っておいたら製薬企業は売上が減る一方」と語ります。年々収益率は下がっており、研究生産性が低下する中でも、新薬創出は求められるため、どの企業も試行錯誤しているそうです。

また、製薬業界は「リスキーな業界」とのことで、臨床段階で1つプロジェクトが頓挫すると、研究所が1つ潰れるくらいのインパクトがあるとのことでした。

オープンイノベーションを積極的に進め、生産性の向上を目指しているものの、米国に比べると日本はアカデミアと上手く連携が出来ていない、と語りました。

『2.日本におけるベンチャー企業の実情』

日米比較の例として、日本のベンチャーはIPOを目指し、米国はM&Aがメインという事例を挙げました。M&Aがメインだからこそ、米国はアカデミアシーズにおける「社会実装のための橋渡し」が上手く出来ているそうです。また、米国のイグジット件数やバイオベンチャーの企業数も、日本に比べ多いとのことでした。

日本でベンチャーが発展しない理由を「人材、資金、場、技術、シーズ」に分類し、今回は人材、資金、場の3つを中心に解説頂きました。

資金面では、製薬企業1社辺りのRnD、バイオ関連の国家予算額、VCの投資額を例に挙げ、日本のバイオベンチャーが置かれている環境について教えて頂きました。
各ステージに対する投資家が豊富にいる米国に比べ、日本はミドルステージに投資する人(クロスオーバー投資家やパブリック投資家)が限られるそうです。

人材面では、日本の起業数がそもそも少ない点と、大学発ベンチャーCEOの最終学歴は「教職員」が最も多い点について指摘しています。海外ではステージに応じて、CEO・CSO等を外部からスカウトしているケースが多数あるとのことです。

場はエコシステムを同義として、こう指摘しました。

「シリコンバレーのようなイノベーションの“ホットスポット”のグローバルランキングにおいて、残念ながら、日本はランク外です」

海外ではエコシステム構築を国家戦略として取り組んでいるとのことで、日本ではまだまだエコシステム構築に向けて出来ることがある旨教えて頂きました。

『3.日本のベンチャー発展に向けて』

最後に、「”ALL JAPAN”から”GLOBAL JAPAN”へ」と題し、日本のサイエンス価値を最大化するためにグローバルリソースを引き込み、積極的に活用すること、
そして全ての創薬プレーヤー・一人ひとりが独自の強みを海外に訴求することが必要と訴えかけました。

■バイオベンチャーとVCの関係性

製薬業界を取り巻く環境とバイオベンチャーについてお話し頂いた後は、セミナー参加者とのディスカッションタイムを用意しました。参加者からは多数の質問が寄せられました。(以下、敬称略)

ー参加者:米国に比べ日本はM&Aが非常に少ないとのことですが、M&Aのタイミングはどのように異なるのでしょうか?  例えば、臨床試験の前後、など具体的に教えて頂きたいです。

ー池浦:日本のバイオベンチャーの特性は海外と全く異なります。海外は大学の中で創薬研究を行っていて、新しい創薬標的(例えば酵素に対する阻害薬を見つければ薬になるよね、というもの)を見つけて、それに対する治療薬を作るという「薬作りのためのベンチャー」が8割くらいいて、残り2割は「これ創薬に使えるんじゃないの?」という技術系のベンチャーです。

一方、日本はその割合が真逆で、ほとんど創薬系のベンチャーがおらず、技術系のベンチャーになります。理由として、日本はVCが少ないので創薬ベンチャーだと資金が回らないという事態に陥ります。

米国の場合、創薬ベンチャーのM&Aのタイミングは、プロジェクトが進んでいって、そのプロジェクトが人でコンセプト検証が出来たタイミングになります。リスクも少なく、製薬会社が「買いたい」と思うタイミングですね。そこまでいくと他企業との取り合いも激しくなります。

ー参加者:海外ではVCの拠点のすぐ側にある大企業、例えば製薬企業の経営に直接口を出せる近い距離の所に投資することが多い、と聞いたことがあります。
海外のVCから日本の製薬企業が投資を得る場合、自社の技術のアピールだけで投資を受けることができるのでしょうか?

ー池浦:自分が投資する側に立ったとして、全く知らない人に投資することは無いかなと思います。関係性はものすごく大事なんだろうなと。

海外系のVCも日本に少しずつ増えてきています。海外のVCから見ても「日本のサイエンスを活かせてないよね。海外の方には目を配っているけど、日本には目を配れていないよね」という問題意識を持ったVCもいます。例えば、エイトローズベンチャーズであれば、海外のVCですが日本にも拠点を持っていたりするので、そういった方々と定期的に連絡を取れば、アドバイスをくれたりするんですよね。

我々の拠点でもある「湘南ヘルスイノベーションパーク」でも投資を得るためのプレゼンテーションの研修を無料で行っており、実際の投資家にプレゼンする場を提供しています。そのような場所・機会を活用して投資家との関係性を作っていくのは重要だと思います。

■海外でバイオベンチャーを起業する場合

ー参加者:日本では資金や人材の環境が整っていないとのことで、海外で起業する方が成功の確率が高いのではないかと感じました。日本の研究者が海外で創薬ベンチャーを起業するのは難しいのでしょうか?

ー池浦:私は色んなベンチャー企業と仕事をする機会が多く、大学発ベンチャーの課題も見えてきているのですが、VCが創薬ベンチャーに対して興味を持つレベルまでに至っていないなと感じています。
この創薬シーズがいかに面白いか、例えば癌なら癌の治療薬としてのポテンシャル、世の中を変えるような薬が作れるよね、という説得力のあるデータ構築をしないといけないんですよね。「可能性があるよね」だけでは大きなリスクマネーなので、投資しづらいです。

その技術がいかに有用か?というエビデンスをデータを持って説明しなければならないのですが、データ構築が不足しているケースもよく見かけます。そのデータ構築が出来ていない状態で海外に行っても、資金は得られないと思います。

必要最低限のお金で、本当に必要なエビデンスを構築する必要があるかと。

ー参加者:海外のVCだと経営人材を紹介してもらえると聞いたのですが、日本に来ている海外VCに相談しても、そういった経営人材は紹介してもらえるのでしょうか?

ー池浦:投資をするとなったらハンズオンでサポートしてもらえると思うので、海外でベンチャーを設立して、海外の彼らのネットワークから紹介してもらえる、ということはあると思います。投資する以上成功させたいはずなので、少なくともボードメンバーに送り込んでくるんじゃないかなと思います。

最初は自分達で事業を進めながら、海外でも説得力のある事業計画を作っていって、次のステップにいく時に、海外の投資家を巻き込んでいくのが良いかなと思います。

その他にも池浦氏に対して多くの質問が寄せられ、中でも「将来、創薬で起業したい」という方からは非常に具体的な質問が寄せられました。

■登壇者プロフィール

Axcelead drug discovery partners株式会社
代表取締役CEO 池浦 義典 氏

京都大学薬学部、Ph.D
元武田薬品工業湘南サイトヘッド、武田薬品工業炎症疾患創薬ユニット長、
マサチューセッツ工科大学ポストドクトラルフェロー、日本製薬工業会 研究開発委員長、Royal Science of Academy, Med. Chem Comm, editorial board member などを歴任
バックグラウンド:biochemistry / organic chemistry

■終わりに

今回は、Axcelead drug discovery partners株式会社 代表取締役 池浦 義典 氏に登壇頂いた際のセミナーの様子をお届けしました。

今後もアントレプレー教育の一環として、ベンチャービジネスマネジメントの講座(VBM)に登壇いただく予定です。著名な経営者・起業家・ビジネスパーソンから、起業やキャリア戦略等についてお話いただきます。